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ジカ熱をめぐる話題

ジカ熱をめぐる話題

平成28年8月1日 発行

「ジカ熱で小頭症の子供が生まれる」との報道があったり、「妊婦はリオ・オリンピックには行かないで」とWHOから勧告があったり、今年に入ってジカ熱が世間を騒がせています。

ジカ熱はジカウイルスによる感染症で、主にネッタイシマカとヒトスジシマカという蚊によって感染します。ウイルスに感染している人の血液を吸った蚊の体内でウイルスは増殖し、その蚊が別の人を刺してウイルスをうつす、というふうに感染が広がります。人から人への感染はほとんどありませんが、わずかに輸血や性交渉による感染例の報告があります。

ジカ熱は10年ほど前まではごく一部の地域の病気でしたが、昨年ブラジルでの流行が報告された後、瞬く間に中南米に広がって行きました。くしくも今年はブラジル・リオでのオリンピックが開催される年、関係者が神経を尖らせるのもうなずけます。日本国内では2013年以降7例の発症が報告されていますが、いずれも海外の流行地域で感染したものです。

では、ジカ熱ではどういう症状が出るのでしょうか?一般的には軽度の発熱、頭痛、関節痛、倦怠感、発疹、結膜炎などで程度も軽く、感染しても約8割の人は症状が出ません。2割の人は蚊に刺されてから2~7日後くらいに症状が出ます。まれにギラン・バレー症候群という全身に力が入らなくなる病気を発症という報告があります。

子供がジカ熱に感染しても症状は大人と変わらず軽いようです。問題は妊婦さんが感染した場合です。おなかの赤ちゃんが小頭症になる可能性が示唆されています。もちろん小頭症の原因はジカ熱だけではありません。他の感染症や遺伝的素因なども原因となります。しかし、どうやって胎児に感染するのか、どの時期に感染するのか、などまだまだわかっておらず、現在各国研究機関が必死になって解明中です。

現在、ジカ熱の治療薬はありません。ワクチンもありません。感染しても症状が軽く予後が良いこと、そして以前は限られた地域のみでの病気であったため、病気の原因究明や治療薬の開発が遅れていることは否めません。

それでは、今、日本にいる私たちは何に気をつければ良いのでしょう?蚊に刺されてうつる病気ですから、刺されないようにするのが一番です。藪や木陰などの屋外で活動する場合は肌の露出の少ない服装にしましょう。虫除けスプレーも有効です。蚊が多いところで寝るときは蚊取り線香や蚊帳が役立ちます。ただ、流行地で感染した発症期の人を刺した蚊に刺される確率は非常に低く、仮に感染したとしても限定された場所での一過性の感染と考えられています。日本全国に生息するヒトスジシマカの成虫は冬を越えて生き延びることはできず、また越冬する卵の中ではウイルスが越冬することがないため、ジカ熱ウイルスも日本国内では次の冬を越すことはできないだろうと考えられています。

性交渉による感染を防ぐにはどうすればよいのでしょう?流行地から帰国した男性は症状の有無にかかわらず帰国後4週間はより安全な性行動をとる、もしくは性交渉を控えることが勧められています。また、パートナーが妊婦さんの場合は妊娠期間中、同様の行動をとることが勧められています。

海外の流行地に出かける際は注意しましょう。すべての蚊がジカウイルスをもっているわけではありませんが、自己防衛はとても大切です。

まだまだわからないことの多いジカ熱ですが、まずはこの夏、無事乗り切れますように。

(I・A記)

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