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食中毒

食中毒

平成27年6月1日 発行分

食中毒は、口から入った病原体や毒素が、消化器系に異常をきたす病気です。
食中毒の原因になる病原体には、ノロウイルスやロタウイルス、A型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルスといったウイルスや、病原性大腸炎やサルモネラ、カンピロバクターといった細菌、そしてアニサキスのような寄生虫があります。毒キノコやフグ毒によるものは、毒素系の食中毒です。食中毒のうち、細菌やウイルスが消化管に感染するものを、感染性胃腸炎と呼んでいます。細菌性の感染性胃腸炎は食品が腐りやすい夏に多く、冬に流行するウイルス性の胃腸炎よりも重症化しやすい傾向があります。

 

今回は夏に多い細菌性の感染性胃腸炎について、主な原因菌の特徴と症状、治療法、予防方法についてお話します。感染性胃腸炎の主な症状は吐き気・嘔吐、下痢、腹痛で、発熱を伴う場合もあります。嘔吐、下痢による脱水症状が続くと、強い全身倦怠感を感じるようになります。
感染から発症までの潜伏期間は菌によって異なります。食べてすぐに発症というわけではなく、数日たってからの場合もあるので注意が必要です。

病原性大腸菌のうち、特に重篤な症状をきたすのは腸管出血性大腸菌で、O-157、O-111が有名です。家畜の消化管に存在する菌で、食肉加工の工程で食肉に付着して広がると考えられます。数字は発見された順番で毒性の強さには関係ありません。潜伏期間が2日から1週間程度と長いのですが、発症し嘔吐下痢の症状が出ると一気に悪化し、脱水が進み、子供や高齢者では溶血性尿毒症症候群に至り死亡する場合もあります。
多くの死亡者を出した焼肉店でのユッケによる集団食中毒の原因はO-111の感染でした。カンピロバクターは、生の鶏肉や牛レバーから感染することの多い菌で、潜伏期間は2~5日と比較的長く、重症化も少ないですが、感染した数週間後に、手足の麻痺や顔面神経麻痺、呼吸困難などを起こす「ギラン・バレー症候群」を発症する場合があります。サルモネラは生肉や、特に鶏卵からの感染が多く、生卵を好む日本人に多い感染症で、潜伏期間が半日~2日です。黄色ブドウ球菌はヒトを含むあらゆる動物に存在します。特に調理者の手指の化膿巣からの感染が多く、エンテロトキシンという毒素を出し、この毒素は加熱しても無毒化されにくいことから、予防の難しい食中毒です。乳製品や魚肉など加工食品、仕出し弁当など人の手を介する食品から感染が広がり、潜伏期間も数時間と短いため、集団食中毒の原因となります。腸炎ビブリオは魚介や魚介の加工品から感染し、潜伏期間は半日~1日です。

 

感染性胃腸炎の治療で一番大切なのは、嘔吐、下痢によっておこる脱水の治療です。
口から水分が摂れる場合には、しっかり摂ることが基本です。飲むと下痢するからといって水分を我慢する方がいますが、間違いです。水分は薬局で売っているOS-1のような経口補水液がおすすめです。吐き気が強く、どうしても水分が摂れない場合には点滴を行います。菌や毒素を体外に排出させるために、下痢止めは原則として使わない方が良いのですが、下痢による脱水を防ぐために、短期間だけ止瀉薬を使うこともあります。細菌感染症なので、抗生物質を使う場合もありますが、脱水を改善させて、菌を出してしまうことで多くの場合は症状は改善しますので、必ず使うわけではありません。

 

食中毒の予防には、食品の衛生、調理器具の衛生、調理者と食事を摂る人の手指の衛生の3点に気をつけることです。食材は適切な温度で保管し、早めに使い切ります。加熱の必要なものは十分に加熱します。調理器具の洗浄、除菌はしっかり行い、よく手を洗い、傷口のあるときはゴム手袋などをつかって、傷が食品に触れないようにすることです。また食中毒患者の吐物や便から感染することもあるので、介護する場合には、マスク、手袋を使うこと。そして吐物や便から感染が広がらないように、しっかり密閉して処分することが必要です。

(S.M記)

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