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痛みとくすり

痛みとくすり

平成27年2月1日 発行分

痛みは自分にしか分からない辛いものです。ペインクリニック(痛みの治療外来)を訪れる患者さんから「この痛みさえ無ければ」という言葉をよく耳にします。痛みの対応方法は色々ありますが、薬物療法は最初に選択される治療法のひとつです。痛みの原因・強さ・経過などによって使用される薬も変わってきます。例えば、腕を何かにぶつけて腕が少し腫れて痛みがあるような場合は「侵害受容性疼痛」と言って、そこに来ている神経終末が刺激されて痛みを感じます。腱鞘炎や肩関節周囲炎(四十・五十肩)はこの部類の痛みで、先ず処方されるのが「消炎鎮痛薬」です。薬の種類は沢山あり、またどの様に体に吸収されるかによって、同じ薬でも経口薬・坐薬・貼付薬・塗り薬もあります。鎮痛効果が高く、しかも副作用のない自分に合った薬・剤型を処方してもらうことができます。

次に、神経が直接障害を受けることにより生じる「神経障害性疼痛」です。椎間板ヘルニヤ、帯状疱疹後神経痛、糖尿病性神経障害などはその例です。俳優の武田鉄矢さんがTVコマーシャルで「あなたの痛みは神経障害性疼痛ではありませんか」といっています。この痛みには、痛みを伝える物質の過剰放出を抑える作用をもつ「神経障害性疼痛治療薬」が使われ、消炎鎮痛薬とは異なった治療効果を発揮します。また、各種の痛みが長引くことにより生じた「慢性疼痛」などには、鎮痛薬のみでなく鎮痛補助薬といったものを使用することがあります。慢性疼痛では経過が長く、痛みの内容が複雑化しているため精神面でのケアが必要となり、抗うつ薬・抗不安薬なども使うことになります。最近では、「医療用麻薬・準麻薬」が慢性疼痛の治療薬として使われています。以前には癌性疼痛の治療のみに使用が認められていましたが、「長く痛みに苦しめられている患者さんの苦しみを少しでも軽減できないか」といった考えの下に使用が許可されました。一日数回飲む薬もあれば、毎日や三日に一回、あるいは一週間に一回張り替える貼付薬もあります。これらの薬の処方には一定のルールがあり、また薬に伴う吐き気・便秘などへの細かい対応が必要ですが、徐々に多くの方に利用されるようになってきています。

漢方薬も痛みの治療上その利用価値は高く、痛みに強く関係する体の冷えや血流障害を始めとする様々な身体状態を西洋医学とは異なる観点から詳細に診て、それらを改善する漢方薬を処方します。高齢者に伴っている痛みなどには、西洋薬より副作用が少なく長期にわたって服用して頂けるはずであり、その利用価値が高まってきています。薬を服用する上で、次の点を強調したいと思います。薬は「両刃の剣」とよく言われ、全く副作用を気にしなくてよい薬などはありません。薬による症状の改善効果の有無が最も大事ですが、①ごく稀に薬疹が出たりすることもあり、自分の体質に合っているかいないかの見極め。②服用する薬の用法容量は厳密に守る。③服用期間が余りにも長くなり過ぎてはいないだろうか。以上の点などは、薬の治療効果を上げると共に副作用を出さないで服用するといったことから大切です。

自分の体は自分で守るといった点からも、良く効いた薬や副作用のあった薬を記録に残していくことが必要です。その為には「くすり手帳」などを大いに活用して下さい。そして医療機関を受診する時には薬歴が書いてある手帳を持参すれば、診察する医師は大いに参考になり助かると共に、あなたご自身の為にもなるはずです。本当に治したいという気持ちがあるか、自分に適した治療法なのかを、事前によく検討し、十分に理解したうえで選択してください。

(O・N記)

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