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『フレイル』について

『フレイル』について

令和2年2月3日 発行

2014年日本老年医学会は高齢化する日本の現状から海外の老年医学の分野で使用されている英語の「Frailty(フレイルティ)」から『フレイル』という概念を提唱しました。「Frailty」を日本語に訳すと「虚弱」や「老衰」、「脆弱」などを意味します。

フレイルは、厚生労働省研究班の報告書では「加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能等)が低下し、複数の慢性疾患の併存などの影響もあり、生活機能が障害され、心身の脆弱化が出現した状態であるが、一方で適切な介入・支援により、生活機能の維持向上が可能な状態像」とされています。健康な状態と介護状態の中間を意味します。高齢者においては特にフレイルが発症しやすいことがわかっています。

原因には加齢に伴う活動量の低下と社会交流機会の減少、身体機能の低下(歩行スピードの低下)、筋力の低下、認知機能の低下、易疲労性や活力の低下、慢性的な管理が必要な疾患(呼吸器病、心血管疾患、抑うつ症状、貧血)にかかっていること、体重減少、低栄養、収入・教育歴・家族構成などが挙げられます。中高年者では過栄養、肥満からなるメタボリックシンドロームが糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病を引き起こし、死亡リスクを高くするため、生活習慣病の予防が大切となりますが、後期高齢者ではフレイルの原因となる身体機能や認知機能の低下に関連する低栄養への対策が重要となってきます。

フレイルの基準(Friedらのフレイルの評価基準)には5項目あり、3項目以上該当するとフレイル、1または2項目だけの場合にはフレイルの前段階であるプレフレイルと判断します。

1.体重減少:意図しない年間4.5キロまたは5%以上の体重減少

2.倦怠感:何をするのも面倒だと週に3~4日以上感じる

3.歩行速度の低下:1メートル/秒未満の場合

4.握力の低下:(利き手の測定で男性26キロ未満)

5.身体活動量の低下

フレイルの状態になっていると風邪をこじらせて肺炎を発症したり、転倒して骨折をする可能性が高くなります。また、骨折、病気による入院をきっかけにフレイルから寝たきりになってしまうことがあります。この状態に家族や医療関係者が早く気付き対応することができれば、要介護状態に至る可能性を減らせる可能性があります。まずフレイルを予防するために下のフレイルサイクルを理解する必要があります。

サルコペニアとは筋肉量が減少し、歩行速度が低下しているような状態です。加齢や病気に伴って起きるサルコペニアを起こすと身体の機能が低下します。足の筋肉量低下により歩行速度が落ち、疲れやすくなるため全体の活動量が減少します。このためエネルギー消費量が減り、必要とするエネルギー量も減少します。動かないとお腹が空かないので食欲もなくなります。加齢による食事量の低下も加わり慢性的に栄養不足の状態になります。これはサルコペニアをさらに進行させ、筋力低下が進むという悪循環へ陥ります。

このフレイルサイクルを断ち切ることが予防であり、治療です。まずは持病をコントロールすることが大切です。糖尿病や高血圧、腎臓病、心臓病、呼吸器疾患、整形外科的疾患などの慢性疾患がフレイルを悪化させてしまいます。次は栄養療法と運動療法です。筋肉をつけるために必要な良質なタンパク質を摂れるような食事指導をします。サルコペニア、筋力低下に対しては、高齢者であっても運動療法は有効です。ベッドの上で足の運動を行うことから始まり、椅子に座ったり立ち上がったりを繰り返したり、歩行距離を徐々に延ばしていくなど個人に合ったものから始め運動強度を調整しましょう。生活習慣も大切です。食事は一人で食べないでみんなとコミュニケーションを取りながら食べた方が摂取量は増えるとの報告もあります。厚生労働省は「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)」として、今より10分多く体を動かす「プラス・テン」の呼びかけを行っています。ちょっとした動作や日常生活そのものに運動の要素を取り入れることでプラス10分の運動も達成することができるという訳です。

高齢化が急速に進んでいる現代社会において、フレイルに早く気付き、正しく介入(治療や予防)することが大切です。

フレイルサイクル

(H・M記)

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