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脳をいつまでも若く元気に!

脳をいつまでも若く元気に!

平成29年6月1日 発行

現在世界諸国で高齢化、長寿化が進行するとともに、認知症の問題は単に医療の問題だけでなく、その国の政策決定の基本問題になりつつあります。我が国でも20年後には認知症患者さんが700万人にも達すると推測されています。認知症とは後天的な脳の障害が起きて、日常生活や社会生活に支障をきたすようになっている状態で、一方、初期の段階では意識はしっかりしている病気です。

認知症にはいくつかのタイプがありますが、約8割がアルツハイマー型認知症と考えられています。最近では原因は徐々に解明されていますが、脳の神経細胞が死滅し、脳に萎縮がおこり認知力や理解力が時間とともに低下し、失われた能力はもとに戻りにくいとされています。また患者さん自身は脳の機能低下が起こっていることに気づくことは殆どありません。アルツハイマー型認知症で最初に現れる症状はもの忘れです。しかし加齢による健康的なもの忘れと異なり、体験したこと自体を忘れている、ヒントを出しても思い出せない、もの忘れの自覚がないことが特徴です。食事をしたことを忘れている、会話がかみ合わない、料理の手順がわからないなど家族の方が、おや?と思うことがあったら、専門医の受診をおすすめします。またもの忘れの症状以外にも、不眠、うつ状態、攻撃的言動、ものとられ妄想、徘徊といった周辺症状で気がつかれることもしばしばあります。

アルツハイマー型認知症はゆっくりですが進行していく病気です。もし診断を受けたなら、早期からの薬物療法で進行を緩やかにして、適切なケア・介護で症状を良い状態に維持していくことも可能です。環境を整えたり、介護を受けることで表情がよくなったり、意欲が出てきたり、感情が落ち着いてくるようになります。

アルツハイマー型認知症の発症の危険因子は大きく3つにわけ考えられています。遺伝因子や加齢といった制御不可能なもの、高血圧・糖尿病などの医学的なもの、そしてライフスタイルが関連要因と考えられています。では認知症予防に有望と考えられるものにはどのような因子があるのでしょうか?ビタミンやω(オメガ)3不飽和脂肪酸や銀杏葉エキスなどの栄養面だけではあまり効果は期待できません。もちろん生活習慣病の薬物療法は非常に大事です。望ましい体重の維持、社会交流と知的な活動、禁煙も認知症予防に有望です。脳トレなどのゲームも一時脚光を浴びましたが、脳の同じ部位ばかり使っていてはあまり効果は期待できないのです。

では認知症の予防として脳を元気に刺激するにはどのような取り組みが効果的なのでしょうか?可能であればできるだけ仕事は続けていくことが望ましいでしょう。手先を動かして脳を活性化すること、例えば絵を描く、料理をするなどは段取りが必要ですから、非常に効果があります。特に男性には、料理は新しいことへの取り組みとしてお勧めしています。そしてもっとも効果があるのは、運動して脳の血流を良くすることです。運動といっても30分程度の散歩を1日2回継続することです。歩きながら五感も働かせましょう。腰痛などで運動は無理、という方には自分の好きな集中できるものを続けることも効果があります。カラオケやマージャンも良いでしょう。歌を歌ったり人とおしゃべりをすることで、顔や顎の筋肉を使うことで嚥下(飲み込み)の機能も保たれます。また、男性でも女性でも身だしなみに気をつけることもとても大事なことです。年齢を巻き戻すことはできませんが、ちょっと胸をはって、視線を上げてみたら、年を重ねるという初めての経験を楽しめるのではないでしょうか?

(N・F記)

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