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転倒と大腿骨頸部骨折

転倒と大腿骨頸部骨折

平成28年2月1日 発行

2本足で歩行する人間にとって、歩行中のつまずきや立ち上がりの際におきる転倒は避けることができません。医療の進歩と生活環境の整備によって寿命が長くなるに従い、高齢者の転倒に伴う骨折が健康な生活を著しく損なって寿命を縮めることが知られるようになり、転倒予防の重要性が認識されるようになってきました。また介護が必要になる理由として、認知症に加え、高齢者の転倒による骨折の割合は増加してきており、いつまでも心身ともに自立した生活を送る健康寿命の延伸のためには転倒予防が一層重要になってきます。

 

転倒骨折における骨折部位として多く挙げられているのは、背骨、手首、太ももの付け根である大腿骨頸部などです。大腿骨頸部は体幹を支える大きな役割を担っており、この大腿骨頸部が折れるということは寝たきりになる大きな要因でもあります。寝たきりの方の90%以上は転倒が原因とされています。大腿骨頸部骨折は男女とも70歳以上で急増し、75歳から79歳では年間10万人あたり500件発症すると言われています。

 

転倒は意外と家の中でおきることが多く、滑りやすい床、絨毯のへり等の少しの段差などで特に転倒しやすくなります。これは加齢により、身体機能である反射神経やバランス感覚、筋力が衰え、高齢になると歩行時に足が持ち上がらず摺り足のようになってつまずきやすくなるためです。転倒経験がある方や、歩く速度が遅くなった方、杖を使っている方は転倒による骨折を起こしやすいと言われています。

 

また骨の強度が弱まり、スカスカの折れやすい状態(骨粗鬆症)になっている事も骨折に影響します。背中の姿勢が丸くなってきた方は骨粗鬆症になっているサインであり、折れやすくなっている可能性が高いです。また体内のビタミンDが不足すると転びやすくなり、骨折リスクが高まることが分かっています。

 

ビタミンDはカルシウムの吸収率を高めて骨を強くする働きと、筋肉を強くするという働きで転倒しにくくする事で骨折を予防します。ビタミンDを多く含む食品は、サケ、ウナギ、サンマ、メカジキ、イサキ、カレイなどの脂っぽい魚や、きのこ類です。また日光に当たると、紫外線の作用で皮膚の中にあるコレステロールがビタミンDに変化します。そのため適度に日に当たることは骨の健康の助けとなります。冬は日照時間が短く、寒さのために家にこもりがちになりますが、天気のよい日はできるだけ屋外へ出て日光に当たるようにしましょう。また、活性型ビタミンD3製剤の内服治療も有効です。

 

転倒による大腿骨頸部骨折を予防するには食事でしっかりとビタミンDとカルシウムを摂取して骨を丈夫にすること、また適度に運動を続けて筋力を維持する事です。骨折が心配だからとすぐにカルシウムやビタミンDを含むサプリメントを利用する人もいます。しかし、まずは病院や診療所でレントゲン検査や骨密度測定などによる診断を受け、診断結果に応じた指導や治療を受けることが第一です。

(K・K記)

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